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長野地方裁判所 昭和60年(行ウ)7号 判決

原告 株式会社蟹沢工務店

被告 伊那税務署長

代理人 杉山正己 和栗正栄 松岡敬八郎 清住碩量 今井優 ほか二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

被告が原告に対して昭和五八年一〇月三一日付でなした昭和五七年三月一日から昭和五八年二月二八日までの事業年度分法人税の重加算税の賦課決定処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、建築及び土木請負を業とする青色申告法人であるところ、昭和五七年三月一日から昭和五八年二月二八日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)分の法人税について別紙確定申告欄記載のとおりの確定申告(以下「本件確定申告」という。)をなし、昭和五八年一〇月二〇日には別紙修正申告欄記載のとおりの修正申告(以下「本件修正申告」という。)をなした。

2  これに対し、被告は、昭和五八年一〇月三一日付で別紙重加算税賦課決定欄記載のとおりの重加算税の賦課決定処分(以下「本件処分」という。)をなし、その旨原告に通知した。

原告は本件処分を不服として、昭和五八年一一月二五日、被告に対し異議申立をし、昭和五九年二月二九日、国税不服審判所長に対し審査請求を行つたが、同所長は昭和六〇年六月五日、これを棄却し、原告は同月二〇日頃その裁決書謄本の送達を受けた。

3  原告は、本件処分に不服であるから、被告に対し、その取消を求める。

二  被告の認否

請求原因1及び2の事実は認め、同3の主張は争う。

三  被告の抗弁

1  原告は、被告に対し、昭和五四年一二月三日から昭和五五年二月二九日までの事業年度(以下「五五年二月期」という。)、昭和五五年三月一日から昭和五六年二月二八日までの事業年度(以下「五六年二月期」という。)及び昭和五六年三月一日から昭和五七年二月二八日までの事業年度(以下「五七年二月期」といい、五六年二月期と併せて「前二期」という。)について、別表の「〈1〉確定申告」欄記載のとおり各確定申告をし、五六年二月期について別表の「〈2〉修正申告」欄記載のとおり修正申告をした。

そして被告が、前二期及び本件事業年度について原告に修正申告をしようようしたところ、原告は、別表の「(4)本件調査による修正申告」欄記載のとおり各修正申告(以下「本件各修正申告」という。)をした。

右各修正申告の所得金額の是正内容は、別表の順号〈8〉ないし〈12〉、〈14〉及び〈15〉記載のとおりである。

2  本件各修正申告の是正内容のうち、別表の「〈8〉仕入否認」欄の金額は、原告がその帳簿に実際には使用していない材料を購入(仕入)、使用したように仮装して記載し、架空の仕入金額を損金の額に算入していたものである。これは、国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正前のもの。以下「通則法」という。)六八条一項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装(以下単に「隠ぺい仮装」という。)し、その隠ぺい仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」ことに該当するものである。

3  また、別表の「〈15〉繰越欠損金の損金算入額否認」欄の金額は、原告が右架空の仕入金額を損金の額に算入したことによつて生ぜしめた架空の繰越欠損金一一七五万一八一八円(以下「本件繰越欠損金」という。)を本件事業年度の損金の額に算入したものであるから、これもまた右条項にいう隠ぺい仮装に該当するものである。

4  したがつて、被告は、原告の本件各修正申告により新たに納付すべき税額が生ずることとなつた五七年二月期及び本件事業年度について、別表の「〈20〉重加算税賦課決定」欄記載のとおり重加算税賦課決定を行つたものであつて、本件事業年度に係る本件処分は適法である。

四  原告の認否及び主張

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実は認め、その主張は争う。

本件修正申告は、本件繰越欠損金が前二期の修正申告によつて存在しないこととなつたために行つたものであり、本件確定申告に係る所得金額の計算の基礎となるべき事実につき、隠ぺい仮装して、過少に計算していたものを是正するために行つたものではない。

4  同4の主張は争う。

五  原告の再抗弁

1  被告は本件事業年度分については、何ら税務調査を行つておらず、本件修正申告は、通則法六五条三項に規定する、「その提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してなされたものではないとき」に該当するので、同法六八条一項の重加算税賦課の要件を欠く。

2  本件修正申告に先立ち、被告係官は原告代表者に対し、「本件事業年度に対しては重加算税の賦課は避けたい。」旨発言していたものであり、前言を翻す本件処分は信義則に違反する。

3  原告は、五七年二月期分の修正申告をして、同年度までの税務上の債務を消滅させ、本件事業年度分については、五七年二月期分の修正の結果、本件繰越欠損金が存在しないこととなつたために、その分が所得となつて課税対象になつたので、この分についても法人税を納付した。

しかるに、この部分に重加算税を賦課することは、すでに消滅した部分に対する加算税の賦課であるから、二重課税である。

六  被告の認否及び反論

1  再抗弁1の事実は否認し、その主張は争う。

被告は、被告所部係官山村清治及び同北原弘治をして、昭和五八年二月二日から原告に法人税調査を実施していたところ、原告が本件事業年度について本件確定申告をしたため、本件事業年度についても併せて調査を実施した。

また、本件事業年度分の修正申告が通則法六五条三項に規定する「その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたもの」であることは、被告所部係官が原告に対し本件調査の結果に基づき修正申告をしようようし、その結果、原告から前二期及び本件事業年度に係る本件各修正申告が同時になされたことから、明らかである。

2  同2の事実は否認し、その主張は争う。

原告主張の事実は、信義則を適用すべき事実となりえない。

3  同3の主張は争う。

五七年二月期に係る重加算税賦課決定及び本件処分の算定根拠は、別表の順号〈17〉ないし〈20〉記載のとおりであり、本件処分の対象とした隠ぺい仮装に係る部分の所得金額一一〇六万八〇五八円については、五七年二月期に係る重加算税賦課決定の対象とされていないから、本件処分が二重課税である旨の原告の主張は理由がない。

第三証拠 <略>

理由

一  請求原因1及び2並びに抗弁1及び3(主張部分を除く。)の事実は、当事者間に争いがない。

二  抗弁2について

<証拠略>並びに前記当事者間に争いのない抗弁事実によれば、次の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

原告のした確定申告は、材料費の仕入れ総額に占める割合(以下「材料費率」という。)が他の法人に比べて高かつたため、被告統括国税調査官北原弘治と被告国税調査官山村清治は、昭和五八年二月二日、原告に対し税務調査を開始し、確定申告の基となつた原告の総勘定元帳、工事原価台帳及び在庫帳等を検討したところ、工事原価台帳に原告の代表者である蟹澤彦一個人からの仕入れ金額が、五六年二月期には、約一五〇〇万円、仕入れ総額の二〇パーセント、五七年二月期には約四〇〇〇万円、仕入れ総額の四、五〇パーセント計上されていたが、その原始資料は現存していなかつた。そこで、被告統括国税調査官らは、五七年二月期に原告が建築した住宅に臨み、あるいは電話をかけてその一部を調査したところ、工事原価台帳に記載されている材料が実際には使用されていない場合が存することをつきとめたが、原告代表者から、こうした方法による調査は営業上支障があるからやめて欲しい旨要請があつたため、原告の代表者の了解を得て、材料費を推計により算定して修正申告を受けることにし、原告に対し材料費率の同業者率は三〇パーセントくらいであると示したが、本件事業年度の確定申告上では材料費率約三三パーセントであり、原告代表者から、本件事業年度の確定申告には代表者個人からの仕入れを含めていないが実際には代表者個人からの仕入れもあつた旨説明を受けたので、材料比率を三五パーセントとして推計し、同年一〇月七日に、この比率により修正申告を行なうよう原告に対ししようようしたところ、原告代表者が同月一九日付けで本件各修正申告を行つた。

以上の事実によれば、原告代表者蟹澤彦一は、架空の仕入を工事原価台帳に記載し、これに基づき前二期の納税申告書を提出したものと認めることができ、また、この架空の仕入を工事原価台帳に記載した行為に基づき計算上発生した本件繰越欠損金を本件事業年度の損金に算入したのであるから、本件事業年度についても、仮装したところに基づき納税申告書を提出したということができる。

三  再抗弁1について

前記認定事実及び<証拠略>によれば、被告統括国税調査官らが原告に対し税務調査を開始したのは、昭和五八年二月二日であり、原告代表者蟹澤彦一が同年四月三〇日本件事業年度の法人税の確定申告を行なつたので、被告統括国税調査官は、同年六月一三日ころ、本件事業年度の帳簿も調査し、同年一〇月七日本件修正申告を含む本件各修正申告をしようようしたため、原告代表者が同月一九日付けで本件各修正申告をしたことを認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、本件確定申告について被告により調査がなされ、原告は本件事業年度の法人税についても、更正処分があるべきことを予知して本件修正申告を行つたと認めることができ、したがつて、原告の再抗弁1の主張は前提を欠き、採用することができない。

四  再抗弁2(信義則違反の主張)について

<証拠略>によれば、被告統括国税調査官が、本件修正申告をしようようするに際し、原告代表者に対し、本件事業年度に対して、重加算税はかからないことが望ましい旨一般論として発言していることが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はないが、納税者の公平及び課税の公正の観点から、この一事をもつて、原告に本件処分を受けない利益が発生したということはできない。したがつて、原告の再抗弁2(信義則違反)の主張も採用できない。

五  再抗弁3(二重課税)の主張について

前記二の事実によれば、本件確定申告は、原告代表者が前二期の架空の仕入を工事原価台帳に記載した行為に基づき計算上発生した本件繰越欠損金を原告代表者が本件事業年度の損金に算入したものであるところ、五七年二月期についての本件調査による修正申告(別表〈4〉欄)の結果、本件繰越欠損金は存在しないこととなり、このため、損金が減額して本件事業年度の所得が増加し、ひいては、これに対する法人税の増加額をもとに算出された重加算税が課されたものであつて、本件処分は、五七年二月期に対する法人税とは何ら関係がないから、原告の所得に対し、二重に課税するものとはいえず、原告の主張は採用できない。

六  以上検討した通り、本件処分は適法であつて、原告の請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 山崎健二 辻次郎 原道子)

別表 <略>

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